青森は津軽塗りや藍染め、リンゴの手籠など手仕事がいまも残っています。
伝統工芸品を制作しながら暮らしを立てている方は日々、切磋琢磨し、地道に仕事を続けて、その年月が技となるのでしょう。
手仕事に懸ける思い
草木染め作家の水田久美子さんと久しぶりに会ったのは、まだ雪が多かった2月でした。
『雪むこうの手仕事展』が、蔵造りの百石町展示館で開催され、水田さんは葛布を出品。
水田さんはこだわりの工芸家です。
地元で採れる植物から繊維を取り出して、糸に紡ぐ。
それはそれは、手間暇がかかって、一年に何枚も着物にすることはできません。
工房には高機があって、その機で織るまでの工程が長いのでした。
右の袖のところに白く見えるのが帯です。
その帯が葛布。
着物は、水田さんの祖父や祖母が遺したものを解き、
金沢の『百徳着物』のように縫い継いだのだそうです。
『百徳着物』はこちら
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不器用だからこそ
水田さんはおっとりとした方です。
でも、内に秘めた情熱は、津軽の冬の厳しさを跳ね返すくらいに激しいのではないか。
そんな印象を受けました。
すこしも制作のご苦労はおっしゃらない方ですが。
「私は不器用でね、覚えるのに人の三倍はかかったのです。
30歳のとき、自分だけの着物を織ってみたくて始めました。
教えを頂いた先生に、『最初からずいぶんと無謀なことを言うのね』と
呆れられましたけれど、どうしてもやってみたくて」
どうしてもやってみたいと、打ち込めるものがある人は幸せ。
そう聞くけれど、それを続けるのが大変に違いありません。
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根気が要るのです。
なにごとも。
何十年も掛けて、ひとりの人生を懸けた仕事です。
葛は、根がくず粉として食用になります。
糸にするには、7月の土用のころ刈り取り、
4時間煮て、空気にふれないようススキでふたをするそうです。
そうして発酵させる。
それから洗い流して、
外皮をむいて糸にするのは内側だけ。
「以前は、大和沢地区の川がきれいに澄んで、葛を洗うことができました。
でも、ここしばらく前から汚れてしまって残念です。
元には戻らないでしょうから」
おっしゃる口ぶりに
地域の自然に対しての危惧が込められていました。
強い主張ではなく、しみじみと控えめに。
草木染めの原料のひとつに、茜(あかね)があります。
古くから、十二単や甲冑の緋嚇(ひおどし)に用いられた、
朝焼けの赤です。
その茜は、相馬地区の野山に自生しているので、やはり刈り取るところから作業は始まって、
これまた煮出して、色素を抽出。
工房で見せて頂いた、
世界でひとつだけのオリジナルの着物は、
織り上げた方の人柄を映すように、
繊細でやさしく、それでいながらとても印象深い色。
着物の下にある赤いのが茜、
そしてグレー地の反物もすべて水田さんの手仕事の結晶です。
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