つがる時空間

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ぞくっと怖い『雪をんな』葛西善蔵が描いた無限の雪地獄

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冬になると決まって、弘前市松森町に生まれた大正期の作家・葛西善蔵を思い出します。太宰治も尊敬の念を抱いていた郷土の作家です。

破滅型の作家として知られ、妻子がありながら家庭を顧みず、若い女性と同棲し、酒浸り。
小説のなかには露悪的な感じの作品もありますが、偽りのない自分を追求したといえるでしょう。

葛西善蔵とは?

1887年(明治20)~1928(昭和3年)まで存命した、大正期を代表する作家。
代表作 『哀しき父』『子を連れて』『椎の若葉』など

葛西善蔵

葛西善蔵が30代のころ。
きりっとした男前ですが、大酒飲みのためか、晩年は顔つきが崩れました。享年41歳。妻が旧浪岡町の地主の娘で、援助を受けながら執筆。稼いだ原稿料を酒に注ぎ込み、生活苦のうちに死去。

妻を裏切り、静養先で料理屋の娘と同棲し、子どもが生まれています。

短編「雪をんな」は独特の世界。青空文庫に収録された作品がありますが、『雪をんな」は未収録。著作権が切れているので、初めと最後のほうをすこし載せますね。吹雪の様子が秀悦です。


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雪をんな

         葛西善蔵

『では誰か、雪をんなをほんとうに見た者はあるか?』
いいや、誰もいない。しかし、
『私とこの父さんは、山からの帰りに、橋のむこうの松原でたしかに見た』
『そんなら私とこの祖父さんなんか、幾度も幾度も見てる』

『 いや私とこの祖母さんは、この間の晩どこそこのお産へ行った帰り、どこんとこの屋敷の前でこう……赤ん坊を抱いて、細い声して云っていたのを確かに聴いた。嘘ではない』
こう私たち少年は確信を以て言い合う。

雪をんなは大吹雪の夜に、天から降るのである。この世ならぬ美しさの、眞白な姿の雪をんなが、乳呑児を抱いて、しょんぼりと吹雪の中に立っている。そして、
「どうぞお願いでございます。この子を抱いてやってください」
こう云うのである。

しかし、決して抱いてはいけない。抱いてやると、その人の命はその場で絶えてしまう。


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私は十九の年に一度結婚した。妻は十六になったばかりの少女であった。が、私たちの故郷は早婚のところなので、十九と十六の夫婦はべつにをかしい程のことはなかった。

婚礼は二月の初め、ひどい大吹雪の日であった。……見合いを済ませていたが、私も彼女もその晩に初めて見合ったようなものであった。

私は彼女を美しいと思った。いかにも弱々しく、いたいけであった。私は眞実から愛していた。その心持は今日でも変わりがない。……

放浪の末に

この小説の後半は、主人公が妊娠中の妻を捨てて、北海道へ渡ることが描かれる。7年間も行商や労働現場を渡り歩き、砂金堀りもしたが、身を切られるような冷たさの川の水に堪えかねて、町へ舞い戻る。

そこで、山の親方と知り合い、帳場を任されて、山奥の現場で暮らすのだ。
「3月いっぱい辛抱すれば、里へ下りて町へ出ればいい。農園でも買って、のんきに暮らせるだろう」

親方はそう言うが、私は急に妻子に会いたくなった。 7年前に家出したきり、会っていない妻、そしてまだ見ぬ我が子。

私は親方に別れを告げて、山小屋を出た。10キロほど歩いたところで、大吹雪になって、積もる雪に足を取られる。

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――吹雪は闇を怒り、吼え、狂った。そしてげらげらと笑った。

『どうぞお願いでございます。ちょっとの間、この子を抱いてやってください」
この世ならぬ美しさの、眞白な姿の雪をんなは、細い声して、自分に取りすがった。私は吹雪の中を転げまわった。

が、ついに雪をんなの願いを聞き入れてやらなかったのである。

そのときから又の7年目が回り来ようとしている。私にはもはや帰るべき妻も子もない。そうして尚、永久にこの雪の多い北の島国を当てもなく、はしからはしへと彷徨い歩かねばならぬのだ。
               完
                      大正3年1月

小説は虚構性が大事

北国の吹雪は怒り、吼え、狂い、げらげらと笑うという表現がみごとです! そんな吹雪に閉じ込められて永遠にさまようのですから、主人公は冬道に迷い、凍死したのでしょう。

小説は虚構性をどう演出し、表現するかで文学となります。オリジナルを生むのは至難の業ですから、作家は頭を悩ませ、神経をすり減らし、あげくに精神的に追い詰められることが少なくありません。

善蔵は家庭を犠牲にしている自分の罪を感じていたはず。それが作品に反映されていますね。
歴史に名を刻む作家はみんな周囲を巻き込んで不幸にするようです。

全集が5巻出ていて、『雪をんな』は第1巻に収録されています。 
2018年8月4日、、更新しました。

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