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10月23日に青森市のアウガ5Fでドキュメンタリー映画「麻てらす~よりひめ岩戸開き物語」が上映されました。
麻の歴史は古く、神道とのつながりが深い。そして現在も麻糸を紡ぎ続ける『よりひめ』のことが鮮明な映像と、しっとりとしたナレーションで構成されていました。
青森市に在住した民俗学者である故・田中忠三郎先生も声で出演。
映画『麻てらす~よいひめ岩戸開き物語』の感想と田中忠三郎先生の研究について紹介します。
『麻てらす~よりひめ岩戸開き物語』とは?
日本古来の大麻文化とその心、そして現在も伝統的な技術を継承する糸績みの若き女性たちの姿を負ったドキュメンタリー映画です。
監督は吉岡敏朗(よしおかとしろう)氏
上映に際してご挨拶されました。笑顔のやさしい芸術家という雰囲気の方です。
映画では、大麻(おおあさ)を畑に植えて刈り取って、糸にする一連の作業が丁寧に美しく映像化されていました。
「よりひめ」という女性たちのグループが、伝統的な技法を絶やすまいと東京などで活動している姿も。麻を長い糸に縒り合せるのは、気の遠くなるような作業。
映画ではその麻糸を用いて、一本の帯に仕上げるところも映し出されていました。
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青森の麻衣を研究した田中忠三郎
在りし日の田中忠三郎先生が、青森の民具『伊達けら」を見せてくださった写真です。映画では声の出演でした。
田中忠三郎先生は、在野の民俗学者で1933年に下北郡川内町生まれ。青森市に長く暮らして、民俗資料を膨大に収集されていたため、郊外に倉庫をお持ちでした。
その倉庫は雪害のため倒壊したのですが、上の写真は2008年ころ雪害に遭う前に撮影した1枚です。
南部裂き織りや津軽裂き織りは、田中忠三郎先生がかつての機織りを再現したいと働きかけて再興されました。
麻糸を績み、機で織ることは農家の女性たちが冬、夜の睡眠をけずって寒気に堪えながらこなした作業だったそうです。
自給自足の時代、麻で衣を作らなければ着るものがなかった。
そのため、衣類は貴重だったと、私はくりかえし忠三郎先生から教えて頂きました。
映画には奥様の智子さんが出演され、「民具資料に生活費まで使う夫だったので、苦労はありました」と、穏やかな表情で語っておられました。
「幸せはゴミ箱の中にだってあるものだが、口癖でしたね」とも。
忠三郎先生は昭和20年代~30年年代にかけて、平内町の槻木遺跡を発掘されていました。
縄文晩期の遺跡が眠る丘ですが、当時は土地開発が優先され、遺跡がつぶされる寸前の時代。
畑仕事が終わった晩秋から春が、遺跡発掘をゆるされた時期。凍死のぎりぎりまで雪を掘り、土を掘ったと伺いました。
縄文時代~麻衣の明治、大正、昭和までの歴史を語る忠三郎先生は、ほんとうに生き生きと瞳を輝かせて青年のようだったことが思い出されます。
映画はクオリティの高い映像で構成されて、しみじみと心に沁み通ります。
今回の上映は、「麻てらす~よりひめ岩戸開き物語」上映実行委員会が主宰し、田中忠三郎氏を偲ぶ友の会が協力。
多くの方に見てほしい良質な映画で、高校生にもおすすめ。また県内で上映されることを願っています。
執筆は2017年11月3日、2018年8月2日に記事を更新しました。
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