岩木山神社は津軽一円の信仰をあつめて、
本殿や拝殿などが重要文化財になっている、とても壮麗な聖地です。
きょう紹介するのは、その岩木山神社より古い歴史を有する
鰺ヶ沢町に近い巖鬼山(がんきさん)神社。
うっそうとした森を背負うがごとくの鳥居です。
縄文時代からの聖地
縁起はふるく、
由緒書きには平安時代の大同2年(807)の建立とあります。
津軽地方の神社はだいたいが大同2年から始まるのですが、そ
れはヤマト王権の支配がこの地に及んだ時期なのではないでしょうか。
ヤマト王権の目的は、税を科すこと。
まあ、言葉を変えると、資源など富の収奪と
労働者の確保(人狩り)に違いないでしょう。
巖鬼山神社の付近は、
縄文時代の大森勝山遺跡や
あるいは平安時代の製鉄遺跡があり、
蝦夷の本拠地であったろうと考えられるのです。
蝦夷は、日本列島に一万年以上まえから暮らしていた縄文人の末裔 とされています。
ところでこのお社のなかには、鬼の面が掲げられていました。
どことなくユーモラスで親近感を抱く鬼さんです。
人間のおじさんをモチーフにしたような。
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岩木山には鬼伝説がいくつもあります。
悪者でなく人間を助けてくれる親切な鬼さんの民話も。
夢か幻か それとも秘術?!
私はこの神社をお参りしたとき、
地元の人たちの素朴な信仰を目にしたことがあります。
男性一人と女性たち三人の先客がいて、
ご祈祷の最中のようでした。
神職のような衣装を身に付けた方はいなくて、
皆さんごくふつうの服装。
拝殿のなかに20本くらいのろうそくを燈して、
一心に頭を垂れて、祈っていました。
そのなかのひとりの女性が、読経をあげています。
ここは神社ですが、神仏混合の場で、仏像もあるのです。
『……羯諦羯諦 波羅羯諦
(ぎゃていぎゃてい はらぎゃてい)……』
般若心経でしょうか。
赤いろうそくの灯が、ゆらめいています。
戸は閉まっているのに。
薄暗いお社に赤々と燈されたろうそくが、
なにやら秘儀めいて映りました。
「わたしたちが邪気に惑わされませんように。
身も心も清らかでいられますよう、どうぞお守りください」
女性はそう畏まると、次にこうのたまったのでした。
「お婆ちゃん、こことここのろうそくが消えたよ。
これは体具合に気を付けへということ。
それほど深刻な病気にはならないだろうが、
用心して暮らしなさいというお告げだからね」
うん、うんとうなずく高齢の方。
そうして、皆さんはそそくさと終了し、お帰りになります。
表情に出さないようにしていたつもりだったけれど、
私が呆気にとられていたことは一目瞭然だったのでしょう。
ろうそくはいつの間にか消され、
独りになった私は、手を合わせようとして
鈴を鳴らしました。
金襴の太いひもに、
百個くらい小さな鈴が付いてあって、
リン、リンと澄んだ音が響きます。
さきほどの光景は何であったのかしら……。
灯明の燃え方で吉凶を占うことを、初めて知りました。
科学万能の世のなかですが、
津軽には独特の精神世界が広がっているようです。
お参りを終えてお社を出ると、
大杉が私を見下ろしていました。
県の指定天然記念物で
太い幹には風雪に堪えた証が刻まれ、まっすぐに伸びています。
天を突くような梢の先は地上から遠くて。
祖霊のまなざしが宿るかのような重厚な大杉を、
しばらく見上げていました。
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