2021/07/02更新しました。
弘前に伝わる怖い話といえば、「種さらいお銀」をごぞんじですか?
弘前市松原にかつてあった「みちのく歴史人物資料館」は、津軽地方の飢饉の歴史と、米の品種改良について解説していました。
閉館となったその資料館に「種さらいお銀」のことが、マネキン人形を用いてリアルに説明されていたのです。
「種さらいお銀」は実話として語り継がれた話こなので、紹介します。
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天明の大飢饉
青森は寒冷地帯なので、昔から5年おきくらいに寒い夏がきて、米が不作となりました。
なかでも、天明の大飢饉は夏に布団をかぶっていなければならないくらい、寒かったのです。
同じ年の7月6日(8月3日)には浅間山が大噴火して、各地に火山灰を降らせました。
その火山灰は、太陽光をさえぎり、翌年から壊滅的な被害を及ぼすのです。
種さらいお銀
津軽地方は天明4年に、稲が伸びないまま秋になって、たち枯れてしまいました。
岩木山の里村は、アワや稗も採れずに、人々は山に入り、ワラビの根を掘ったり、松の木の内皮を削ったり。
そんなときに、16歳になったばかりのお銀は、両親を相次いで亡くしました。
お銀の親は、石屋を営んでいます。
自然石を削り、お地蔵様や墓石などを製作して、村人の家やお寺に納入。
田畑はなく、親が亡くなったので、お銀は困ってしまいます。
なぜなら、家には病気の妹とまだ幼い兄弟が残されたから。
飢えに苦しむ
お銀と兄弟は飢えに苦しみながら、ようやく冬を越します。
春の雨は冷たく、芽だしした山菜も人々に争うように採り尽くされて、病の妹に食べさせるものは、もう豆の一粒もありません。
「このままでは、みんなが死んでしまう」
お銀はある夜、名主の田んぼに撒かれたばかりの種籾(たねもみ)を、そっとすくって、持ち帰ったのです。
しかし、それはわずかな量ですから、空腹の足しにはなりません。
罪と罰
お銀は月のない夜にもう一度、田んぼの種籾をすくいに行きました。
辺りは真っ暗です。
そっと泥の中に、ザルを沈めたとき。
「おめ、なにしてらだ?」
お銀はえり首を、乱暴に掴まれました。
その場で縄でぐるぐると体を縛られると、名主の家へ引っ立てられたのです。
「石屋の娘、銀だな」
かがり火の前で面をさらされ、身元はすぐに判明。
「飢饉のときの盗みは大盗賊に劣らねえ。このまま見逃せたら、種さらいする奴はきっとまた出る。許すわけにはいかねえど」
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制裁
飢饉の時は、村の誰もが満足に食べることができないため、不満がものすごく溜まっていました。
行き倒れて、道ばたで亡くなることが珍しくない時代です。
お銀は体を縛られ、長い黒髪でミズナラの枝にくくりつけられました。
そのミズナラは川のすぐそばにある木で、お銀は川面の上にぶら下げられたのです。
「おっこねえ! 助けでけれ!」
お銀は許しを請い、声の限りに叫びました。
漆黒の闇にたった1人、黒髪が全体重を支えるのみ。
髪を引っ張られる頭の痛みと、暗闇にキラッと光るキツネやオオカミの目。
「許しでけれ! おらは死にたくねえ」
お銀は何日間も泣き叫びましたが、4日目には声も出なくなります。
喉の渇きと、衰弱で息は絶え絶えですし、春先の風は冷たく低体温に。
もう涙も涸れ果ててしまったときでした。
「お銀や、もうあきらめろ。
せめて来世は、幸福な巡り合わせを祈れや」
そう引導を渡して、ひしゃくに水を恵んだのは、お銀の隣家のばあさま。
おぎんはその水を口にすると、やがて静かに事切れました。
枝の黒髪
おぎんの遺体は、そのまま枝に吊り下げられたまま、幾日も風に吹かれていました。
見せしめですから、埋葬はされません。
やがて、頭皮が朽ちて、体は川にズボンと落ちると、浮き沈みしながら流れて行きました。
ミズナラの枝には黒髪が引っかかったままで、お銀の命が尽きたことを知らせるだけ。
やがて、時代は飽食の世となり、津軽の飢饉のことを語る人もいなくなりました。
しかし、種さらいお銀は今も川の底にいて、「助けでけれ」と、叫んでいるかもしれません。
夜に、あなたはそんな声を耳にしたことがありませんか。
もし、聞こえないはずの声が聞こえ、この世ならぬモノの姿を見てしまったときはお米を小皿に盛って、「南無妙法蓮華経」を唱えると、飢え死にした亡者たちはきっと救われた思いがして成仏することでしょう。
とっつぱれ
まとめ
種さらいお銀の原話は、船水清著「わがふるさと」にも載っています。
この話が長く伝えられることになったのは、お銀のたたりで、引導を渡したおばあさんの家以外は、滅んだとされるから。
『わがふるさと』には、 ミズナラの木と川の写真がモノクロで載っていました。
親なしで、かばう身内がいなかった少女のお銀は、飢饉の犠牲者のひとり。
お盆には苦難の先人たちに、手を合わせたいものです。
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